ふらふらと寝起きで揺らぐ頭をどうにか支えながら、布団を抜け出す。暦の上では春なのにまだまだ寒い日が続いていて、寝具の間から這い出ることは酷く難しいことだった。枕元の携帯を見ると午前5時46分の表示が成されていて、街が起き出す前の静けさが窓の外に漂っていた。

ああ、結局変な時間に起きちゃったよ

 心の中で呟いてから、その原因となった青年をじぃっと見つめる。べろりと私の足の裏を舐めて、頬っぺたに小さな指を押し付けられた私は、睡眠妨害に屈して白旗を揚げることにした。そんな、主義主張をはっきりする彼は、くりくりと大きな目を見開いて、今か今かと朝食を心待ちにしているようだった。
「お姉さんはどうしてる?もう起きてるの?」
「みぃ」
 聞いても言葉が通じないのは分かっていたけれど、こちらが話しかけるとまめに返事をする猫とは、何となく意思疎通が出来ている気がする。彼と顔を合わせるたびに肉球同士の熾烈な争いを繰り広げる彼女は、おそらくカーテンの前で私を待っているのだろう。くあぁ、と欠伸をしながら今に向かって歩いていくと、もう一匹の猫がカーテンの前から走ってきた。人間ではないと分かっているけれど、餌が絡むと人格(猫格?)が変わる二匹に苦笑いをしながら、私はペットフードを器に入れた。

 ああ、今日はどんな一日になるのだろう。大学も秋学期が終わり、しばらく休みだから何もすることがない。図書館に行こうにも、開館は3時間以上もあとだ。借りておいた本を読もうかとも思ったが、気の滅入る外国文学を朝から読むのは気が進まない。仕方なく、パソコンに接続して充電しておいた音楽プレーヤーを取り出して、BGMを設える。テレビは騒々しいから見る気がしないし、新聞はまだ寒いから取りに行きたくない。そんなだらけた朝に見合う紅茶を淹れようとキッチンに立つと、朝食をたっぷり食べた猫がまだこちらを見ていた。
「お腹一杯になった?」
「みゃぁお」
「え、まだ足んないの?太るから駄目」
「みゃぁあ」
 そうして、お湯を沸かしながら猫と会話をしている気になってみる。おそらく餌関係のことだとは思うが、これ以上固太りしたらあだ名がメタボになるぞ、と言いかけて自分1人で笑ってしまった。彼をどう呼ぼうと、たぶん彼はほとんど気にかけないのだろう。それは、彼と色違いの毛皮を被った彼女も変わらないのだろうけれど。だらだら無意味に考えながら、よれてしまったスェットの襟ぐりをぐいっと掴んで裾を引っ張る。他の人と比べて柔らかい自分の髪は、枕と頭の重さでプレスされて人前に出るには勇気のいるようなウェーブがかかっていた。寝癖取ろうにも、シャワー浴びるのが寒いんだけどなぁ。早く癖が付かないほど髪が長くなることを祈っていたら、シュンシュンという音がいい湯加減を伝えた。

そんな僕らのつまらない日常

 特にやることもない、特にやりたいこともない、だらけきった朝だけれど。きっと大好きな音楽を聴いて大好きな猫たちと一緒に陽の光を浴びれば、燦然と輝く一日に変わるのだろう。夢見がちな私たちの、つまらなく愛おしい日々に幸あれ

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2010.05.16./小山彩音





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