私の世界はどこまで拡げられるのだろうか。明かりをつければ闇は退き世界の広さは目に見える。そうやって少しずつ陰翳を削りとりながら私の世界は拡張を続ける。それはまるで拡がり続けているらしいと言う宇宙と同じようにたくさんの輝きを封じ込めた虚無の空間。気をつけて歩いていかないと油断した瞬間に足下を掬われて光とともに暗い穴へと閉じ込められる。

 小さい頃母から聞いた宇宙の果てには、赤い煉瓦の壁があって「ここは宇宙の果てです」という看板が立っているのだ。その何語ともつかぬ言語で書かれた看板の色が幼心に疑問だった。虚無を映す真白か、昏く移ろう濡れ羽色か、静かに脈を流れる葡萄色か。人の叡智をも超越したその極地に辿り着く者があるとすれば、彼はその代償に孤独となるのだろう。

 私の意思にかかわらず拡がり続けるこの世界が恐ろしすぎて、窓を閉めて明かりを消した。閉める瞬間に窓の外に見えた沢山のきらきらと、自分の真っ白な顔。シャッとカーテンを引いて周りの星々を天球から追い出した。

看板を見るにはまだ、早すぎる。

宇宙論のジレンマ

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2010.01.17/小山彩音



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